ソーシャルネットワーク
妄想宅配便 | 今日は何の日?
2009.11.05

今日は何の日?


「ただいま」
「お帰り」
「ん?何の匂いだ?」
「え?」
 吾郎が帰宅すると、部屋中に甘酸っぱい香りが充満していた。
「何って…リンゴのバターソテーだよ。桃子さんに教えてもらったんだ」
「ふうん…」
 楽しそうに料理をする姿に、吾郎はいささか拍子抜けした。
(こいつ、今日何の日か忘れてるんじゃねぇのか?)
 裸エプロンで出迎えるサービスを期待していたわけではないが、今年は何をしてくれるか少し期待していただけに吾郎は肩を落とした。
 子供ではないのだから、ご馳走を用意して欲しかったわけではないが、それはそれで寂しいものがある。
 去年は互いの誕生日にスーツを贈り合って、ホテルで熱く抱き合った。
「ねぇ、聞いてる?」
「へ?」
 熱く甘い交歓を反芻していると、ペチリと頬を叩かれる。
「ご飯どうするのかって聞いたんだけど」
「え」
「何か食べに行く?」
「…どこに?」
「?どっか行きたいところあるの?」
「…いや、別に」
「じゃ、家でいい?」
「あぁ…」
 頷くと恋人は冷蔵庫を漁り始めた。
 この様子だと、昨日の残りの煮物か冷凍したカレー、もしくは残り物を使った炒飯かもしれない。
「…何か手伝うか?」
「いいよ。座ってて」
 温かいコーヒーを渡されてリビングに追いやられた吾郎は、渋々テレビを見始めた。
 ぼんやりとワイドショーのコメンテーターの話を聞いていると、今日はリンゴの日らしい。
「だからバターソテーってわけか…」
 今日の食後のデザートはきっとリンゴを使ったものだろう。
 シナモンが効いたお茶請けのソテーを食べながら、彼はため息をついた。
「できたよ」
「…早いな。え?」
 恋人の声に顔を上げると、笑みを浮かべた桃子たちが立っていた。
「何で…」
「誕生日おめでとう」
「寿君と相談してビックリさせようと思ったの」
「ほら、兄ちゃん。みんなでご馳走作ったんだよ」
 テーブルの上にはいつの間にか、沢山の料理が並べられている。
「ほら、冷めないうちに食べよう」
 寿也の声に促されて、吾郎は笑って頷いた。


「んっ…」
 その夜、桃子たちを見送った吾郎は風呂上りの寿也の肌に顔を埋めていた。
「今日、ありがとな」
「え…」
「母さんたち呼んでくれて、嬉しかった」
「良かった。…でも」
「ん?」
「途中まで拗ねてたでしょ?僕が忘れてるって思って」
「…うん」
 苦笑して頷くと、頬を包み込まれてキスをされた。
「どうして僕が、世界で一番大事な人の生まれた日を忘れてるなんて思うのさ」
 不満そうに尖らせた唇にキスを返すと、髪を撫でていた手にも口付けた。
「もう一回」
「え?」
「さっきのもう一回言ってくれよ。世界で一番…何?」
「…」
「ダメ?」
 首を傾げて顔を覗きこむと、緩く息を吐いた恋人が耳元に顔を近付ける。
「愛してる」
「…」
 思いも寄らぬ告白に目を見開いた吾郎に、寿也が笑みを浮かべた。
「不満?」
「…いいえ、全然」
 顔を見合わせて吹き出した彼らは、共にシーツの波間へと沈んでいったのだった。


-終-
この記事へのトラックバックURL
http://hheizo.blog50.fc2.com/tb.php/912-679bca33
この記事へのトラックバック
この記事へのコメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Posted by at 2009.11.05 21:48 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Posted by at 2009.11.06 09:01 | 編集
I丸サマ
こんにちはー。いきなり妙なお知らせをしてスミマセン…。
何だかまぁ色々と考えることがありまして……。
そうですよね…「帰る場所」も必要ですよね…。
うぅむ…。
大好きだと言ってくださってありがとうございます(感涙)。私も大好きです。
コメントありがとうございました。
Posted by 平蔵 at 2009.11.07 15:10 | 編集
管理者にだけ表示を許可する